甲州ぶどうとともに1000年。
山梨ワインは過去から未来へ。

山梨ワイン

新宿から特急かいじでおよそ90分。都会の喧騒は消え、豊かなぶどう畑の風景が、富士山や南アルプスの山々に見守られるように広がります。近年、日本ワイン人気で全国にワイナリーが増えました。そのパイオニアが山梨県。他県に先駆けてぶどう栽培、ワイン醸造の歴史は1000年以上に及ぶといいます。人呼んで「ワイン県」。山梨ワインの魅力を知るために現地を訪れました。

歴史とパッションが育んだ、山梨ワイン。

山梨県甲州市勝沼町柏尾山に「ぶどう寺」と呼ばれる国宝のお寺があります。正式な名前は大善寺。この寺の薬師堂にはぶどうの房を左手に持った薬師如来像が納められ、5年に一度御開帳されるのだそうです。※註1

※註1)次回の薬師堂御開帳は2028年に予定されている。

山梨県酒造組合会長で勝沼醸造株式会社代表でもある有賀雄二さんは、日本ワインの歴史についてこう語ってくれました。

「甲州ぶどうがいつどうやって日本に伝わったのかは諸説あります。今はDNA鑑定で色々なことがわかるようになりました。山梨のぶどうの象徴であり、日本を代表する一番古くから栽培されてきたぶどうは甲州と言われています。甲州のDNAは、ワインに向くヨーロッパ系ぶどうの原産地であるコーカサス地方であることが証明され、仏教僧の行基が718年に建立した大善寺の薬師如来がぶどうを携えていることから、仏教と共にシルクロードを経て薬として伝来したという説が有力なのです。」

山梨ワイン
南に富士山、北が八ヶ岳、東に奥秩父、西は南アルプス。ぐるりと山に囲まれる甲府盆地とぶどう畑。
山梨県ワイン酒造組合会長の有賀雄二
山梨県ワイン酒造組合会長の有賀雄二さん。ワイン醸造に自身も取り組みつつ、長きにわたり、山梨ワインを見守ってきた。

山梨県の誕生は1871年。それ以前は甲州と呼ばれ、甲州ぶどうは江戸時代、あるいはそれ以前から栽培され、生食用とされてきました。有賀さんによると甲州ぶどうはかつて「日本ぶどう」「本ぶどう」と呼ばれていたそうです。ワイン醸造がスタートしたのは明治時代になってまもなく。ワインにも甲州ぶどうが活用されます。明治政府は当時、国策として富国強兵、特に殖産興業に力を入れ、ぶどう栽培やワイン醸造も国の施策の一環でした。山梨県では早々に日本初の共同葡萄酒醸造場が開業します。※註2その後に設立された法人組織、大日本山梨葡萄酒会社では、ワインの本場フランスにいち早くワイン醸造を学ばせるための人材を送り込みました。※註3

※註2)共同葡萄酒醸造場は、山田宥教と詫間憲久が共同で葡萄酒の醸造を始めた。
※註3)明治10年(1877)10月、大日本山梨葡萄酒会社の高野正誠と土屋龍憲がぶどう栽培とワイン醸造を学ぶためフランスに渡った。

ぶどうは乾燥を好む果実。欧米と比べて日本の気候は圧倒的に湿潤です。山梨県は盆地で、取り囲む山々が雨を遮るといっても、ぶどう栽培の本場、ヨーロッパに比べれば生育期の降水量は多く、栽培は容易ではありませんでした。しかし同県では、日本の気候にあったぶどう栽培方法として、棚仕立ての開発や、垣根栽培でも傘をかぶせたようなレインカットという独特の方式の採用など、地域が一丸となって探究心とパッションを持ってワイン造りに臨んできました。

山梨ワイン
山梨県で典型的な棚仕立て。地上の湿気から果実を守る、高温多湿な日本にあった仕立て。

現在は日本全国にたくさんのワイナリーが増えましたが、明治時代に挑戦したものの、諦めていった産地がかつてはたくさんありました。フィロキセラ病というヨーロッパに端を発したぶどうの重篤な病気、戦争など、幾多の苦難にも負けず、山梨県の生産者たちは栽培醸造技術や人材育成、普及活動を継続してきたのです。

「ずっとワインを作ってきたけれど、まだまだこれからだと思っています。日本ワインが人気と言われるようになりましたが、歴史はまだ浅い。山梨には少なくともぶどう栽培に約1000年の歴史がある。そこはやっぱり他とは違いますと言いたいですね」(有賀さん)

山梨県には一升瓶のワインを湯呑みで飲む習慣があると聞きました。やはり歴史ある産地としてワインを飲むことが日常化しているのかと思えば「いやいや、それはワインが売れなかった時の話。“自産自飲”の歴史ですよ」と明るく笑い飛ばされました。売れない時代には、その地域の産物をその地域の人々が消費するためにワインの自産自飲の運動が生まれたのです。山梨のワイン生産者たちの気概を感じるエピソードです。

和食と山梨ワインが、強力タッグになる未来。

有賀さんは今、山梨ワインに風が吹いているといいます。それは世界の日本料理、和食のトレンドが上昇しているからです。インバウンド観光客は今後も増え続けるでしょうが、彼らの大きな目的の一つが日本料理や和食を食べること。そして海外でも、和食料理店は大人気です。

「甲州は、和食との相性が格段に良いワインです。魚介と合わせても生臭さが出ないし、ベースに出汁っぽい味わいがあります。ワインは食があってこその存在ですから、和食と合わせて山梨ワインを体感してもらえるチャンスが広がっていくと思います」

甲州は2010年に日本のワイン用ぶどうとして初めてOIV(国際ぶどう・ワイン機構)からワイン用ぶどう品種に登録されました。これによって、世界のワイン産地に甲州というぶどうが認知されるようになりました。海外でも甲州を使用したワイン造りが始まっています。

山梨ワイン
収穫期を迎えた甲州。外皮は薄い藤色。発酵後に澱引きせず、果汁と一緒に熟成させるシュール・リー製法は甲州種の特長をよく引き出すとして人気の製法。

2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されると、和食人気に拍車がかかりました。可憐に料理に寄り添い、食事を引き立てる甲州ワインは、日本料理に限らず、日本料理の影響を多分に受けた世界の料理にも合います。世界の料理の傾向はより繊細になっています。甲州ワインは白桃、りんご、みかん、グレープフルーツ、花梨など繊細なフレーバーを持ち、その魅力が世界に伝わるのは、これからが本番かもしれません。

山梨ワイン
同じ甲州種からも、様々なワインが生み出される。

甲州盆地、そして甲州ぶどうを中心に発展してきた山梨ワインですが、最近は多様な品種、そして新たな産地形成も注目されます。甲州と同じく、日本で生まれたワイン用ぶどうの赤品種、マスカット・ベーリーAは、ベリー系の香りがチャーミングなワインです。カジュアルな食事にも合わせやすく、濃くて重い赤ワインは苦手という人たちには、ワインの新たな入り口となるでしょう。また、メルローなどのワイン専用品種でも、ヨーロッパの味を追いかけるのではなく、日本らしい味わいを追求する生産者や醸造家も増えています。県の北西部、八ヶ岳山麓のエリアにも、意欲的な新しいワイナリーが増えつつあります。

山梨ワイン
ワイナリー巡りをして、山梨ワインが生まれた場所でワインを飲むのもかけがえのない体験。歴史あるワイナリーも多く、見どころの一つ。
山梨ワイン
まなしを代表する品種、甲州(左)とマスカット・ベーリーA(右)。

日本国内では最大のワイナリー数を擁する山梨県。代表品種の甲州はもちろん、お気に入りの品種やワイナリーが必ず見つかるはずです。東京から少し足を延ばして、一日ワインの旅をしてみませんか?

Text : Kaori Shibata
Photo : Takao Ota

山梨のワイン

  • アルプスワイン株式会社
  • シャトージュン株式会社
  • まるき葡萄酒株式会社
  • 丸藤葡萄酒工業株式会社
  • 岩崎醸造株式会社
  • 錦城葡萄酒株式会
  • 盛田甲州ワイナリー

山梨の技

  • AGLUCA有限会社
  • 望月煌雅工房
  • (有)土屋華章製作所
  • 六郷印章業連合組合

商品を探す






サイト案内







閉じる

ページトップ